【令和8年7月1日施行】経審の改正点解説

令和8年7月1日以降に提出する経営事項審査の申請から、審査項目の一部が見直されます。
今回の改正は単なる様式変更ではなく、その他社会性(W)の評価内容が変わる改正となっております。
建設業を営む中小企業の経営者にとって重要なのは、「何が変わるのか」だけでなく
- 総合評定値(P点)にどう影響するのか
- 次回の申請までに何を準備しておくべきか
を整理することです。
本記事では令和8年7月1日施行の経審改正について、行政書士の立場から実務上の影響を分かりやすく解説します。
- 経審改正について、建設業を営む会社の代表者が確認しておきたいポイント
- 新設「職人いきいき宣言」を行うべきか判断するためのポイント
- 次回の経審申請までに準備しておきたいこと
令和8年経審改正のポイントは3つ
現在、建設業界では「改正建設業法(第三次・担い手3法)」の全面施行を控え、労働者の処遇改善や、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及促進が急務となっています。また、近年の大規模災害を踏まえた「地域の守り手」としての役割強化も求められています。
これらを踏まえ、今回の改正では主に以下の3つの視点から見直しが行われました。
- 「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」による加点を新設
- 「不整地運搬車」「アスファルト・フィニッシャ」が建設機械の保有状況(W7)の加点対象機械に追加
- 社会保険加入に関する評価項目を削除
今回の改正のポイントはいずれもその他社会性(W)に関する改正だという点です。

ちなみに経審の総合評定値(P点)の算式そのものは変わっていません。
総合評定値(P点)の算式は、次のとおりです。
P = 0.25X1 + 0.15X2 + 0.20Y + 0.25Z + 0.15W
- X1:完成工事高
- X2:自己資本額・利払前税引前償却前利益
- Y :経営状況
- Z :技術力
- W:その他社会性
つまり、X1・X2・Y・Zの構造やウェイトはそのままで、見直されるのはWの中身ということになります。
それでは、具体的な改正内容を見ていきましょう。
改正点1 「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」がW評点の加点項目に新設
建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度とは
「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」(愛称:職人いきいき宣言)とは、
建設技能者を大切にし、処遇改善に積極的に取り組もうとする事業者が、その旨を内外に宣言する制度です。
(出典:「国土交通省・自主宣言制度ポータルサイト」)
この制度の目的は「建設技能者を大切にする会社が正しく評価され、人と仕事が集まる『好循環』を作ること」です。
具体的には以下の3つのステップで建設業界全体を良くしていく枠組みを目指しています。
- 建設技能者を大切にし、給与や休日などの処遇改善に積極的に取り組むことを、会社が内外に向けて公式に宣言
- 宣言をした会社が、建設技能者だけでなく、発注者やエンドユーザーに至るまでの取引全体の中で適切に評価され、結果として「優先的な受注機会の確保」につながる
- 働く環境を整えることで求職者から「選ばれる会社」になり、人材が定着することで、さらなる処遇改善が持続的に行えるようになる

宣言する取り組み内容として国土交通省は、記入の一例として以下のものを挙げています。
- 共通:宣言企業との取引優先、CCUSの利用環境整備、会社独自の取組
- 元請・発注者:適切な工期・労務費等での取引
- 下請:技能レベルに応じた手当や賃金支払、月給制、週休2日制
手続きの流れ
手続きは概ね次の流れになります。
ここで特に注意したいのは次の点です。
- 自主宣言は代表者名で行う
- 元請・下請・発注者の立場で宣言できるが、重複宣言はできない
- 取組がすべて開始していなくても申請は可能だが、申請時に設定する取組開始日までに開始している必要がある
- 宣言日と取組開始日が異なる場合がある
- 宣言内容はポータルサイトで公開される
加点を取るためのポイント
「職人いきいき宣言制度」は令和8年7月1日以降の経審申請から加点対象となります。
加点のためのポイントは次の3点です。
- 審査基準日(決算日)が宣言日以降であること
- 宣言書と誓約書が提出されていること
- 宣言した取り組みを、取組開始日以降に実施(または開始)していること
決算日以前に宣言をしておく必要があるため、申請の直前に宣言の準備を始めてもその年度の加点には間に合わないということにご注意ください。
さらに自主宣言はポータルサイトで申請してから公開されるまでに約1ヶ月程度かかります。公開されないと経審の申請書類として準備できないため、経審の申請時期から逆算して早めに手続きを済ませましょう
総合評定値(P点)への影響
宣言を行うことでW(その他社会性)で5点が加点されます。
これはP点(総合評定値)に換算すると約6.5点となります。
5点× 10 × 175 ÷ 200=43.75
W点の評点 43点(端数は切り捨て)
W点が占めるウェイト 0.15
43点×0.15=6.45点
CCUS関連の配点見直しにも注意
今回の改正では同時に「建設工事に従事する者の就業履歴を蓄積するために必要な措置の実施状況」の配点も見直されます。
改正前は
- 民間工事を含む全ての建設工事:15点
- 全ての公共工事:10点
でしたが、改正後は
- 民間工事を含む全ての建設工事:10点
- 全ての公共工事:5点
に見直されます。
つまり自主宣言制度の新設はWの中で加点の重心を少し組み替える改正ということになります。
CCUS関連の加点を取っていた場合、現在の経審の点数(P点)を維持するためには、自主宣言を行うことが実質的に必須と言えます。
改正点2 建設機械の保有状況(W7)の加点対象が拡大
追加される機械
建設機械の保有状況(W7)では、次の2機種が加点対象に追加されます。
- 不整地運搬車
- アスファルト・フィニッシャ
この見直しは地域防災や災害復旧対応の観点が背景にあります。
令和6年の能登半島地震等での活用実績を踏まえて災害復旧や地域防災に資する機械を経審上も評価するという方向で見直しが行われました。
今後は上記2機種を加えた合計11機種が評価対象となります。
今回の改正を機に、自社保有機械の棚卸しと、加点対象該当性の確認を行うことをおすすめします。
建設機械の加点を受けるためのポイント
建設機械の保有で加点を受けるには次の2つの要件を満たす必要があります。
- 所有形態は自社所有またはリース契約
- 機械の種類に応じた適切な検査を受けていること
建設機械の保有形態は、自社所有だけでなくリースも対象になるということがポイントです。
そのため機械が自社名義でないからといって、直ちに加点対象外と決めつけないことが大切です。
ただしリースの場合は注意点があります。それはリース契約の期間です。
加点対象となるリース契約は「審査基準日(決算日)から起算して、1年7ヶ月以上の使用期間が残っている」ことが条件となっています。
申請先(許可行政庁)によってはリース契約が審査基準日から1年7か月以内に終了する場合でも、更新・延長・買い取り予定があるときは、加点対象とする取り扱いがありますので、手引きなどで確認しましょう。
また申請にあたっては特定自主検査記録表や自動車検査証など、従来通り適切な検査を受けていることが条件となります。
改正点3 社会保険加入に関する評価項目の削除
これまでその他社会性(W)の中には、次の3項目がありました。
- 雇用保険の加入状況
- 健康保険の加入状況
- 厚生年金保険の加入状況
未加入の場合は、それぞれマイナス40点で最大マイナス120点という厳しい減点措置がありました。
しかし令和8年7月1日以降の申請では、これらの減点措置が経審の評価からすべて廃止されます。
評価項目削除の背景
令和2年の建設業法改正により、社会保険(雇用・健康・厚生年金)への加入が「建設業許可」の要件となりました。つまり許可を持っている時点で社会保険への加入は「当然の前提」となったのです。
経審の段階で改めて「社会保険に加入しているか」を確認する必要性が乏しくなったため、事務手続きの効率化の観点から削除が決まりました。
なお、未加入の場合はそもそも建設業許可の維持・更新ができなくなる恐れがあるため、引き続き適正な社会保険に加入しておく必要があります。
改正による点数算出(P点)への影響
今回の改正に伴い、その他社会性(W点)の最低点、および総合評定値(P点)の最低点も変更されます。
・その他社会性(W)の最低点
改正前 ▲210点 → 改正後 ▲90点
・総合評定値(P)の最低点
改正前6点 → 改正後163点
建設業の経営者が今から準備しておきたいこと
これから経審の申請を予定している場合、少なくとも次の点は早めに確認しておくことをおすすめします。
1. 次回申請が改正後ルールに当たるか確認する
適用基準は「審査基準日(決算日)」ではなく、「令和8年(2026年)7月1日以降に経審を申請するか」どうかで決まります。
(例)3月決算の法人の場合
令和8年3月期の決算を迎え、令和8年7月に経審の申請を行う場合は、この改正後ルールが適用されます。
次回の申請時期がいつになるのか、決算日と併せて必ず確認しておきましょう。
2. 「職人いきいき宣言制度」に対応するかを経営判断する
その他社会性(W)の加点の新設項目なので
- 宣言を行うかどうか
- どの立場で宣言するか
- いつまでに手続きするか
を早めに検討する必要があります。
特に、審査基準日(決算日)が宣言日以降であることが加点要件なので、 経審直前ではなく、決算日との関係も見ながら逆算して準備を進めていく必要があります。
3. 保有機械の所有形態と添付書類を整理する
今回追加された「不整地運搬車」や「アスファルト・フィニッシャ」も含めて自社の建設機械の保有状況を整理しておきましょう。
また台数カウントの漏れがないように
- 自社所有かリースか
- リースなら残存期間は十分か
- 検査証憑は有効か
を一覧で確認できるよう管理台帳を整備しておくことが大切です。
まとめ
令和8年7月の経審改正は、「技能者確保」「災害対応力」「許可管理のあり方」を改めて見直すことを求める内容でもあります。
経審の点数は、公共工事の受注機会に直結します。今回の改正内容を正しく理解し、自社の点数がどのように変化するのかを早期に把握しておくことは、経営戦略上極めて重要です。
当事務所では、建設業許可の新規取得や更新、経審の申請など建設業を行う事業者様のサポートを行っております。
「自社の機械は加点対象になるのか?」「自主宣言はどう進めればいいのか?」といった具体的な疑問をお持ちの方は、お気軽に当事務所へご相談ください。
