長崎県の医療法人設立スケジュール|申請期限と診療開始までの流れ

クリニックの医療法人化を考え始めたとき
「いつから準備すればよいのか」
「どのような手続きを、どの順番で進めればよいのか」
は気になるところです。
長崎県の設立認可申請には年2回の提出期限があり、まずはどちらの期限を目指すかを決めて準備を進めます。
また認可後も登記や診療所の開設、保険医療機関の指定などの手続きが続くため、法人として診療を始めるまでを見据えた日程調整が大切です。
この記事では、長崎県で既存の個人診療所を医療法人化する場合を中心に、申請前の準備から法人診療の開始までを順に解説します。手続きの全体像をつかみ、ご自身のクリニックで何から準備するかを整理するためにお役立てください。
- 長崎県の設立認可申請期限と、事前協議・書類確認の時期
- 申請前に決めておきたい事項と、準備する主な書類
- 認可後から法人診療を始めるまでの手続きと、スケジュールの組み方
※この記事は2026年10月1日時点の法令・公表資料を基に作成しています。
長崎県の医療法人設立は年2回の申請期限から逆算する
医療法人は株式会社のように登記だけで設立できる法人ではありません。主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事の認可を受ける必要があります。
出典:医療法第44条第1項
また医療法人の設立認可は医療審議会の意見を聴いたうえで決定されます。長崎県ではこの審議を年2回開催するようになっており、設立認可申請書には提出期限を定めています。
具体的な提出期限は次のとおりです。
| 区分 | 設立認可申請書の提出期限 |
|---|---|
| 上半期 | 6月30日まで |
| 下半期 | 11月30日まで |
※提出期限が土曜日または日曜日に当たる場合は翌月曜日が期限です。
事前協議は申請期限の1か月前までに始める
長崎県で設立認可申請を予定している場合は、遅くとも申請期限の1か月前までに医療政策課へ連絡し、事前協議を行います。この段階では申請予定や案件の概要を伝え、個別の事情に応じた進め方や必要書類を確認します。
そして申請書類の原案が整ったら、申請期限の3週間前までに電話連絡の上、1回目の書類確認を受けます。申請内容によって添付書類が異なり、書類確認が複数回にわたる場合もあります。
申請予定を県に伝え、進め方や必要書類を確認する
作成した申請書類の原案について1回目の確認を受ける
事前確認での指摘事項を反映した最終版の設立認可申請書を提出する
下半期の申請を例にすると提出期限は11月30日です。遅くとも10月30日ごろまでに事前協議を行い、11月9日までに1回目の書類確認を受けるという逆算になります。
ただし事前協議を行ってから申請準備を始めると、1回目の書類確認までに十分な準備時間を確保できなくなります。事前協議の期限から1回目の書類確認まではおおむね1週間しかないためです。
定款などの申請書類を作成するほか、役員関係の書類をそろえ、財産や契約の引継ぎについても整理する必要があります。借入金やリース契約を引き継ぐ場合は金融機関・リース会社との調整にも時間がかかります。事前協議より前から準備を進めておきましょう。
医療法人として診療を始めるまでの全体の流れ
個人診療所の医療法人化は個人事業の名称を法人名へ変更するだけの手続きではありません。医療法人を設立し、その法人が診療所を開設するための手続きを行います。大きな流れは次のとおりです。
- 法人化の目的と設立認可申請の時期を整理する
- 社員・役員、法人名、事業内容、会計年度などを決める
- 資産・借入金・リース・賃貸借契約などの引継ぎ方法を整理する
- 定款や設立趣意書など申請書類の原案を作成する
- 長崎県医療政策課と事前協議を行う
- 事前確認を受け、申請書類を仕上げる
- 6月30日または11月30日までに設立認可申請書を提出する
- 長崎県による申請内容の審査を受け、必要な補正を行う
- 長崎県が医療審議会に諮問
- 長崎県知事の設立認可を受ける
- 法務局で医療法人の設立登記を行う
- 長崎県へ設立登記完了届を提出する
- 保健所で法人診療所の開設許可申請を行う
- 法人診療所を開設し、法人の開設届と個人診療所の廃止届を提出する
- 九州厚生局で法人診療所の保険医療機関指定と個人診療所の保険医療機関廃止に関する手続きを行う
- 税務・社会保険・公費医療・施設基準・契約名義などについて、個人側の廃止と法人側の開始・変更に必要な手続きを行う
申請準備で先に決めておきたい事項
医療法人を設立するには申請時期や会計年度をはじめ、法人の運営体制・財産・契約関係などを決める必要があります。申請書類の作成に入る前に次の事項を整理しておきましょう。
設立認可申請の時期
長崎県の設立認可申請期限は6月30日と11月30日の年2回です。法人化の希望時期と準備状況を踏まえ、どちらの申請期限を目指すかを決めます。
役員構成や財産・契約関係の整理には時間がかかるため、申請期限から逆算して数か月の準備期間を確保しましょう。
会計年度
個人事業の会計年度は1月1日から12月31日までです。一方、医療法人は定款で会計年度を定めるため、決算月を選ぶことができます。3月決算や9月決算など、12月末以外の決算月も選択できます。
社員・役員の構成
社団医療法人では社員・理事長・理事・監事となる人を決めます。
医療法人の「社員」とは従業員のことではありません。社員総会を構成し、1人1個の議決権を持つ法人の構成員です。社員総会は社団医療法人の最高意思決定機関であり、定款の変更や役員の選任など法人の重要事項を決定します。
長崎県では適切に社員総会の議事を行うため、社員は3名以上必要とされています。
役員には原則として理事3人以上と監事1人以上が必要です。診療所の管理者は原則として理事に加えます。また理事長は医師または歯科医師である理事の中から選びます。
心身の故障により職務を適正に行えない人や、一定の刑罰を受けた人などは役員になれません。こうした欠格事由に該当せず、実際に職務を担える人を選びます。
社員と役員はそれぞれ異なる立場ですが、社員が理事または監事を兼ねることはできます。ただし監事は理事や法人の職員を兼ねられないため、理事や職員とは別の人を選ぶ必要があります。
- 社員 3名以上(理事・監事との兼務可)
- 理事 3名以上(内、1名は理事長)
- 監事 1名以上(理事との兼務は不可)
法人名
法人名を決める際は、既存の医療法人と同一または紛らわしい名称を避けます。設立後の名称変更には定款変更認可や変更登記が必要になるため、長く使用することを前提に検討しましょう。
法人へ引き継ぐ財産
個人で所有している現預金・医療機器・什器備品などのうち、どの財産を法人へ引き継ぐか整理します。土地・建物を院長個人が所有している場合は法人へ譲渡するのか、法人に貸し付けるのかを決めます。
基金制度を採用する場合は拠出する金額や財産も決めます。
財産の譲渡や貸付けの方法によって税務上の取扱いが変わるため、税理士にも確認したうえで進めましょう。
借入金・リース・賃貸借契約の引継ぎ
個人名義の借入金・リース契約・賃貸借契約は自動的に法人へ移るわけではありません。法人へ引き継ぐものを整理し、金融機関・リース会社・賃貸人に契約変更の可否と必要な手続きを確認します。
法人に必要な医療機器などの取得・拡充に伴う負債は、一定の書類を添えることで法人の負債として取り扱えます。一方で法人化前の運転資金や医薬品・消耗品の購入に伴う負債は引き継げません。借入目的と取得した資産の対応関係まで確認します。
事業計画と予算が必要になる場合
設立後2年間の事業計画と予算書は、すべての申請で必要になるものではありません。
必要になるのは、主に次の場合です。
- 病院または介護老人保健施設を開設する場合
- 既存の個人診療所を法人化するのではなく、医療法人の設立に合わせて新たに診療所を開設する場合
- 常勤の医師または歯科医師が3人以上いる診療所を開設する場合
- 2カ所以上の診療所を開設する場合
提出が必要な場合は設立後2年間の診療体制や従業員数、患者数を想定して収支の見通しを立て、事業計画書と予算書にまとめます。
長崎県への設立認可申請に必要な主な書類
前章で整理した役員構成や財産・契約関係をもとに、設立認可申請書と添付書類を作成します。長崎県へは申請書類一式を2部提出します。
ここでは既存の個人診療所を法人化する場合を想定し、主な書類を整理します。
| 分類 | 主な書類 |
|---|---|
| 法人の基本事項 | 設立認可申請書、設立趣意書、設立総会議事録、定款 |
| 財産・資金 | 財産目録、財産目録の明細書、資産に関する調書、運転資金に関する調書、基金(寄附)申込書 |
| 診療所 | 不動産登記事項証明書、開設する診療所の概要(省略用) |
| 社員・役員 | 社員・役員名簿、設立者・役員の履歴書、役員就任承諾書、役員の印鑑証明書、設立代表者への委任状、管理者就任承諾書 |
| 該当する場合 | 賃貸借契約書、資産の売買・貸借関係書類、借入金・買掛金・リースの引継関係書類、評価証明書、設立後2年間の事業計画書・予算書 |
必要書類は申請内容によって異なります。事前協議で確認し、長崎県の最新様式を使用するようにしましょう。
認可後は2週間以内の設立登記に注意する
医療法人は設立認可を受けただけでは成立しません。設立登記を行うことで初めて法人として成立します。
設立登記は設立認可を受け、拠出額の払込み等、設立に必要な手続が終了した日から2週間以内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局で行う必要があります。
出典:組合等登記令第2条
設立登記の手続きは司法書士の専門業務です。認可書を受け取ってから依頼先を探し始めると、司法書士との打合せや登記の準備を余裕のない日程で進めることになるため、設立認可の申請中から必要書類や登記日程を相談しておきましょう。
また設立登記が完了したら、「医療法人設立登記完了届」を長崎県医療政策課へ提出する必要があります。
個人診療所から医療法人へ切り替えるには開設と廃止の手続きが必要
個人診療所を医療法人へ切り替えると、診療所の開設者が院長個人から医療法人へ変わります。同じ場所で診療を続ける場合でも、法人診療所の開設と個人診療所の廃止をそれぞれ手続きする必要があります。
法人診療を始める前に開設許可を受ける
医療法人による診療を始める前に、法人名義の診療所開設許可を受けなければなりません。申請・相談先は診療所の所在地によって異なります。
| 診療所の所在地 | 申請・相談先 |
|---|---|
| 長崎市 | 長崎市保健所 |
| 佐世保市 | 佐世保市保健所 |
| その他の市町 | 所在地を担当する県立保健所 |
開設許可申請は、許可希望日の概ね1カ月前に行います。申請様式や添付書類、手数料の納付方法は申請先によって異なるため、あらかじめ相談して準備を進めましょう。
診療所開設許可申請の手数料はいずれの地域も18,000円です。
法人診療所を開設した後に開設届と廃止届を提出する
開設許可を受けて法人診療所を開設した後は、10日以内に法人診療所の開設届を提出します。また個人診療所についても、10日以内に廃止届を提出します。
法人化後は保険医療機関の指定申請も必要
法人化後も保険診療を続けるには、診療所の開設許可とは別に、法人診療所として新たに保険医療機関の指定を受ける必要があります。九州厚生局長崎事務所へ指定申請を行うとともに、個人診療所についても保険医療機関としての廃止手続きを行います。
保険医療機関の指定は所定の申請締切までに申請したうえで、原則として申請した月の翌月1日付で受けます。
ただし個人診療所を法人化する場合は一定の要件を満たすことで、法人診療所の開設日にさかのぼって指定を受けられる場合があります。これを「遡及指定」といい、法人への切替日から引き続き保険診療を行うために重要な取扱いです。法人化すれば自動的に適用されるものではなく、要件の確認と申請が必要です。なお遡及指定の取扱いは2026年9月1日から変更されています。
指定申請書の提出は保健所への開設に関する届出後になりますが、事前相談や書類の準備はそれ以前から進めておきます。法人診療の開始日に合わせて手続きできるよう、九州厚生局長崎事務所へ早めに相談し、遡及指定の可否や申請期限、必要書類を確認して日程を調整しましょう。
また個人診療所で届け出ていた施設基準に基づく診療報酬を法人化後も引き続き算定する場合は、別途届出が必要です。指定申請とあわせて準備を進めましょう。
設立スケジュールの組み方
まず6月30日と11月30日のどちらの設立認可申請期限を目指すかを決め、準備に必要な期間を確保します。認可後の手続きも見据え、次の表をもとに全体の日程を組み立てましょう。表には準備時期の目安と、各手続きで守る必要がある期限をまとめています。
| 時期 | 主な作業 |
|---|---|
| 設立認可申請の期限の数か月前から | 申請時期を決め、社員・役員の構成や財産・契約の引継ぎ方法を整理し、申請書類を作成する |
| 遅くとも設立認可申請の期限の1か月前まで | 長崎県医療政策課と事前協議を行う |
| 設立認可申請の期限の3週間前まで | 1回目の書類確認を受け、指摘事項の修正を進める |
| 設立認可申請の期限(6月30日または11月30日)まで | 最終版の設立認可申請書を提出する |
| 設立認可申請後から認可まで | 県の審査に対応する。並行して司法書士や保健所、九州厚生局へ相談し、認可後の手続きに向けた準備を進める |
| 設立認可後 | 必要な基金等の払込みを行い、設立に必要な手続きが完了した日から2週間以内に設立登記を行う。 登記後は県へ設立登記完了届を提出する |
| 法人診療開始前 | 法人診療所の開設許可を受け、契約やシステムの切替準備を整える |
| 法人診療所の開設後 | 法人診療所の開設届と個人診療所の廃止届を提出する。 その後、保険医療機関の指定申請と個人診療所の保険医療機関としての廃止手続きを行う |
| 法人診療への切替えに合わせて | 税務・社会保険・公費医療・施設基準などの手続きを、それぞれの期限に合わせて進める |
※設立認可申請の提出期限が土曜日または日曜日に当たる場合は翌月曜日が期限です。
認可後の手続きは、認可を受けてからすべての準備を始めるのではなく、申請中から相談や書類の準備を進めておくことが大切です。保険医療機関の指定申請についても、法人診療の開始日から保険診療を続けられるよう、遡及指定の取扱いと申請日程を事前に確認します。
また行政手続きだけでなく、契約や電子カルテ・レセコンなどのシステムを切り替えるための期間も確認し、法人診療の開始日に合わせて関係者と日程を調整しましょう。
行政書士は医療法人の設立認可申請の専門家です
「何から準備すればよいか」
「日々の診療と法人化の準備を両立できるのか」
と迷ったときは、法人化を検討し始めた段階で行政書士へご相談ください。
行政書士は医療法人の設立に関して、次のような手続きをサポートできます。
- 医療法人設立認可申請
- 設立登記後の医療法人設立登記完了届
- 保健所への法人診療所の開設許可申請
- 法人診療所の開設届
- 個人診療所の廃止届
また法人化には税務や登記、社会保険などの手続きも伴います。これらは税理士・司法書士・社会保険労務士など、それぞれの分野の専門家に相談しながら進めましょう。
